ペアトレードスプレッド計算機
ペアトレードにおけるスプレッドとコインテグレーションを計算するツール。ヘッジ比率βと平均回帰戦略の数学的基盤を解説します。
ペアトレードスプレッド計算機
Photo by Maxim Hopman on Unsplash
ペアトレードとは
ペアトレードは、2つの相関性の高い資産間の価格差(スプレッド)が平均から大きく乖離した際に、割高な方を売り、割安な方を買うことで利益を得るマーケットニュートラル戦略です。1980年代にモルガン・スタンレーの研究チームによって開発されました。要するに、双子の銘柄の「はみ出し」を拾うゲームです。
ペアトレードの核心は、2つの資産間の価格差が平均回帰するという仮定にあります。つまり、一時的に乖離したスプレッドは、時間とともに平均値に戻るという性質を利用します。
大学の同級生の渡辺さんは個人投資家としてペアトレードに挑戦していました。しかし、コインテグレーションの検定を怠ったため、2銘柄の関係が構造的に崩れた途端に大きな損失を出してしまったそうです。「相関だけ見て動いたらダメだった」——彼の痛い経験は、定量的な検定の重要性を強く教えてくれました。
スプレッドの計算式
基本スプレッド
最も基本的なスプレッドの計算式は、2つの資産価格の対数差です。
$$\text{Spread} = \ln(A) - \beta \times \ln(B)$$
ここで:
- $A$:株式Aの価格
- $B$:株式Bの価格
- $\beta$:ヘッジ比率(コインテグレーション係数)
ヘッジ比率の計算
ヘッジ比率 $\beta$ は、ヘッジ回帰(hedge regression)により算出されます。
$$\ln(A_t) = \alpha + \beta \times \ln(B_t) + \epsilon_t$$
最小二乗法による推定:
$$\hat{\beta} = \frac{\sum_{t=1}^{T}(\ln(A_t) - \overline{\ln(A)})(\ln(B_t) - \overline{\ln(B)})}{\sum_{t=1}^{T}(\ln(B_t) - \overline{\ln(B)})^2}$$
具体例
株式Aと株式Bの過去60日間の対数価格データを使用してヘッジ比率を計算します。
仮定:$\hat{\beta} = 1.2$
現在の価格:$A = 5,000$円、$B = 3,000$円
$$\text{Spread} = \ln(5{,}000) - 1.2 \times \ln(3{,}000) = 8.517 - 1.2 \times 8.006 = 8.517 - 9.607 = -1.090$$
コインテグレーションの検定
ADF検定
コインテグレーションの検証には、拡張ディッキー・フラー検定(ADF検定)が使用されます。スプレッド系列が定常(ステーショナリー)であることを検定します。
$$\Delta y_t = \alpha + \beta t + \gamma y_{t-1} + \sum_{i=1}^{p} \delta_i \Delta y_{t-i} + \epsilon_t$$
仮説:
- $H_0$:$\gamma = 0$(コインテグレーションなし)
- $H_1$:$\gamma < 0$(コインテグレーションあり)
ADF統計量が有意水準の臨界値を下回る場合、コインテグレーションが成立すると判断されます。
Engle-Granger検定
2変量のコインテグレーションを検定する方法として、Engle-Granger検定があります。
トレーディング戦略
エントリー・イグジットルール
一般的なペアトレードのルールは以下の通りです。
エントリー条件:
$$z = \frac{\text{Spread}_t - \overline{\text{Spread}}}{\sigma_{\text{Spread}}}$$
スプレッドが平均から $\pm 2\sigma$ 以上乖離した際にポジションを開始します。
| シグナル | 条件 | アクション |
|:---|:---:|:---|
| ロングスプレッド | $z < -2$ | Aを買い、Bを売る |
| ショートスプレッド | $z > +2$ | Aを売り、Bを買う |
| 解消 | $|z| < 0.5$ | ポジションを閉じる |
利益の計算
ポジションの利益は、以下の式で計算されます。
$$\text{Profit} = \Delta\ln(A) - \hat{\beta} \times \Delta\ln(B)$$
平均回帰の半減期
スプレッドの平均回帰速度を表す指標として、半減期 $h$ があります。
$$h = -\frac{\ln(2)}{\gamma}$$
ここで $\gamma$ は、以下のオーラン・ウレン回帰の係数です。
$$\Delta \text{Spread}_t = \gamma \times \text{Spread}_{t-1} + \epsilon_t$$
半減期が短いほど、平均回帰が速く、ペアトレードが効果的であることを示します。
リスク管理
リスク要素
ペアトレードには、以下のリスクが存在します。
適切なポジションサイズ
ポジションサイズは、最大許容損失に基づいて決定します。
$$\text{ポジションサイズ} = \frac{\text{資金} \times \text{リスク\%}}{\sigma_{\text{Spread}} \times \beta}$$
まとめ
ペアトレードスプレッド計算機は、マーケットニュートラル戦略を実行するための利器。ヘッジ比率の計算、コインテグレーションの検定、スプレッドの分析——これらを駆使すれば、2銘柄の関係を数字で捉えられます。しかし、市場は生き物。万能の戦略など存在しないことを肝に銘じ、常にモニタリングを怠らないことが勝利への近道です。